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2023.03.15

資産活用通信2023年3月号「生前贈与で不可欠の知識 トラブル招く特別受益」

 

生前贈与はさまざまな節税対策や相続対策に活用されていますが、最低限押さえておくべき仕組みであるはずの「特別受益」については見落としている人も多く、相続発生時に相続人同士の争いに発展してしまうケースは後を絶ちません。

相続人同士の不公平を是正

特別受益とは、相続人が亡くなった人から生前に受け取っていた利益のことをいいます。相続人以外が受け取った生前贈与には、基本的に特別受益の考えは及びません。対象者となるのは、あくまで生前贈与を受けていた相続人となります。
特別受益が存在すると、遺産の分け方に影響が及ぶことがあります。遺産相続を公平に行えるようにするため、民法で特別な取り扱いが定められているからです。

・亡くなった方 母
・遺言書の有無  無
・相続人  長男と長女
・死亡時点の遺産額  5,000万円
・長男への生前贈与  2,000万円

民法上の遺産分割のモデルケースである「法定相続分」に従えば、死亡時点の遺産額5千万円を長男と長女で2,500万円ずつ均等に相続することになります。ただ、生前贈与を加味すると長男は合計4,500万円を承継することになりますので、長女と比べて多額になります。長女からすれば「長男は生前に2千万円の財産を受け取っているのだから、その分だけ遺産の相続額を減らさないと不公平だ」と思うでしょう。
相続人同士の不公平感をなくすため、相続額の計算に生前贈与を含めることを「特別受益の持ち戻し」といいます。先ほどのケースに適用すると計算例のようになります。

【計算例】(単位:万円)
・遺産分割の対象額  5,000(遺産)+2,000(特別受益)=7,000
・長男の相続  3,500(=7,000÷2)-2,000=1,500
・長女の相続額  3,500(=7,000÷2)

対象となる贈与の具体例

生前贈与のすべてが特別受益になってしまうわけではありません。特別受益の対象となるのは、一定の要件に該当するものに限られます。一般的には、次にいずれかに該当すると特別受益になります。

● 生計の資本としての贈与

独立し生活を営む子などに対する多額の贈与です。不動産やその取得資金の贈与などが典型例です。

● 扶養的な援助の範ちゅうを超える贈与

扶養するために必要とされる費用を超えた贈与です。

以上の要件を踏まえると、例えば最大1千万円までの贈与が非課税となる「住宅取得資金等贈与」については、特別受益にあてはまるでしょう。居住用不動産の新築・購入・増改築のための資金は、「生計の資本」に他ならないからです。また、原則として非課税となる毎年110万円までの贈与についても、もっぱら相続税負担の軽減を目的としたものであるならば「扶養的な援助の範ちゅうを超える贈与」として特別受益に該当するものと考えられます。
相続税対策として生前贈与を活用するのであれば、これらに該当していないかどうか確認しておくべきでしょう。特別受益の持ち戻しがあれば、先述の例のように争いの種となりかねないためです。

遺産争いを防ぐ3つの方法

相続人同士が特別受益の持ち戻しを巡る争いに発展しないよう、事前に講じておくべき対策を3つご紹介します。

(1) 持ち戻し免除の意思表示を行う

遺産分割における特別受益の持ち戻しは、被相続人の生前の意思表示で回避できます。この仕組みを「持ち戻しの免除」といいます。
意思表示は口頭でも有効ですが、争いを避けるためには書面に残しておくのが望ましいでしょう。書面化が困難であれば、録音や録画でもかまいません。むしろ肉声で残したほうが、自分の意思より強く伝えられるかもしれませんね。
なお、遺留分の計算をする際には特別受益の持ち戻しを免除できません。遺留分は法律で保障される遺産相続の最低限度額であり、被相続人の意思をもってしても侵害できないとされているためです。

(2) 持ち戻しの対象を明確化しておく

持ち戻しの対象となる贈与を明確にしておく方法もあります。持ち戻しに「なる」「ならない」で相続人同士が揉める事態にならいよう、特別受益に該当する生前贈与については、贈与の事実を証拠化しておきましょう。また、特別受益を受けた相続人から「相続人から生前贈与を受けているので、その分相続できる財産はない」という旨を記載した特別受益証明書の発行をお願いしておくのも対策のひとつとして考えられます。

(3) 相続人が不公平感を抱かないように配慮する

相続する全員が不平・不満を抱かなければ、そもそも特別受益の問題は生じません。結局のところ、被相続人があらかじめ相続人同士の公平感がつくられるように配慮しておくのが最も重要な対策と言えるでしょう。

出典:『納税通信』エヌピー通信社

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