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―知らないと怖い名義預金の話―

2022.09.27

奥様!その預貯金はあなたのものですか?
―知らないと怖い名義預金の話―

最近は、買い物をしたりサービスの提供を受けたりした際の支払いの方法も多様化してきました。以前からの現金、クレジットカードに加えて電子マネー、スマホ決済、デビッドカードなどを使用することができるようになりましたが、こういった方法のうち、プリペイド(前払い)方式や現金払いを除けば、大半が預貯金口座を経由して代金の支払いがなされます。
また、その時々の買い物に限らず、水道光熱費、通信費、保険料、税金、新聞代などの支払いを預貯金口座からの自動引き落としによる支払いにされている方も多いのではないでしょうか。
支払いに限った話でなく、給料、年金の受取、配当、分配金、利息、家賃収入などの収入についても、預貯金口座に振り込まれるように手続きをされている方も多いかと思います。
こう書いてみますと、現代において生活に必要な経済取引を行うためには、もはや預貯金口座はなくてはならないものとなっています。ですから、成人した方ならば、日々の生活のために1つは預貯金の口座をお持ちでしょうし、未成年者の方でも、中学や高校に進学する機会に自分の預貯金口座を作られたりするでしょう(自分の口座を持つ、というのが少し大人になったようで、こそばゆい気分になった思い出がある方もいらっしゃるのでは…)。

その預貯金口座は誰のものですか?

そう聞かれたら、皆さん何とお答えになるでしょうか。「そんなの当然、預貯金口座の名義人のものでしょう?」そう答える方がほとんどかと思います。例えば山田太郎さん名義のA銀行普通預金の通帳を見たら、それは当然に山田太郎さんの通帳であり、山田太郎さんはA銀行に普通預金の口座を持っているのだな、と考えますよね。
しかし税務申告においては、そのあたり、ちょっと注意が必要なんです!

前置きが少し長くなりましたが今回はちょっと注意が必要な「名義預金」のお話をさせていただきます。

 

長年貯めた「へそくり」の取り扱い

ここで、会社員のご主人の預貯金通帳を奥様が管理し、月々必要な生活費等の金額を一度奥様名義の預貯金口座に移し替え、生活のやりくりをしている、ベイヒルズさんというご家庭があったとします。
ベイヒルズさんのご家庭では、ご主人の給与受け入れ預貯金口座から、必要な金額を一度奥様名義の生活費管理用の預貯金口座へ移し替えたのち必要な支払いなどをしていますが、奥様は一生懸命倹約に努め、「今月はこれだけ支出があるだろう」と計算して最初に移し替えた金額よりも低い金額に支出を抑えました。
余った金額を、奥様は使わなかったからとご主人の給与受け入れ口座に戻すのではなく、万が一のことが起きた場合に備えて生活費管理用の口座へそのまま残しておくことにしました(「へそくり」といってもよいかもしれません)。
それを10年、20年、30年と繰り返しているうちに、奥様名義の預貯金口座の残高は相当高額になり――そしてある日、ベイヒルズさんのご主人がなくなりました。

さて、このようなケースを、相続税の申告や遺産分割という場面においてどのように扱うのでしょうか。

口座の名義は奥様で、口座の残高が増えたのも奥様が一生懸命倹約に努めた結果、言ってみれば奥様の努力の結晶なわけですが、元をたどれば、それはご主人の口座にあった、ご主人のお金です。

結論から申し上げますと、この奥様名義の生活費管理用口座は、「口座の名義は妻であるが、実質的にお金を出したのは夫である」として相続税の課税対象財産となり、遺産分割協議の対象として扱われます。相続税が課せられますし、遺産分割協議の行方如何では、奥様以外の相続人が取得する可能性もあるのです。

 

「名義預金」とは

この例のように、口座の名義人と、口座に入れるためのお金を出した人(「実質的な所有者」といいます。上の例ではベイヒルズさんのご主人が実質的な所有者にあたります。)が異なる預貯金のことを、「名義預金」と言います。名義預金は口座の名義人ではなく実質的な所有者――お金を出した人のものであり、実質的な所有者が亡くなれば、相続税の課税や遺産分割協議の対象となります。

では実際の名義預金か否かの判断はどのように行われるのでしょうか。

預貯金の所有者が誰かという判定をする際は、その口座名義が誰かということも重要なのですが、更に重要なのは、「その預貯金の元手(原資)は誰が負担しているのか」ということです。基本的には原資を出した人のものと判断することとなります。

 

名義預金か否かを判定する基準は

①  誰が元手を出したのか

②  管理・運用は誰がしていたのか→ 預貯金通帳等の保管はどうしていたか、誰の印鑑を使っていたか、預貯金の出入金等は誰がしていたのか

③  収益の受け取り→ 元本から生じる利息等の収益は誰が受け取っていたのか

④  元手を出した人、預貯金口座等の名義人および管理運用を行っていた人の関係はどのようなものか

⑤  問題となっている預貯金作成の経緯はどうであったか→ 誰が作成の手続きを行ったか、本人の意思によるものか、贈与等の事実はあったか

上記①~⑤を総合的に勘案して判定することとなっています。とは言うものの、当事者である皆様が判断することは困難であるかもしれません。

今回取り上げた例と似たようなケースを、国税不服審判所では次のように判断し、妻名義の預金を夫のものであると判断しています。もちろん誰が元手を出したのかなど、様々な事情を総合的に勘案した結果の判断です。
「……夫婦間において家庭生活を妻に委任しその費用を妻に渡すことや一定の預貯金の管理運用を妻に任せることはあり得ることでありその事実をもって任された妻の財産になるわけでもない。……」

 

夫の名義として課税されないために

妻からすれば自分の作った預貯金口座、自分名義の預貯金が、実質的に夫のものであるとされ相続税の課税がされてしまう、あるいは遺産分割の対象となってしまうということが起こりえるのですが、では、どうしたらこういった事態を避けられるのでしょうか。

簡単に言ってしまうと、「それが自分のものであるならば、普通はこうしているよね」という状況にしておくことです。例えば

 金融機関の届出印は共用せず、夫婦別々のものを使用する。

通帳等の保管は本人がおこなう。

預貯金の引き出し、預け入れ、その他運用等は本人がおこなう。

利息、分配金等の収益は本人が受け取る。

贈与等があった場合は、その証拠を残しておく(贈与契約書の作成等)。

など、自分のものは自分のものとして管理をすることが大事です。

なお、今回は夫婦間の名義預貯金を例としましたが、有価証券や保険契約など、預貯金以外の財産でも同様の注意が必要です。また夫婦間のみならず親子間、祖父母と孫などの親族間、場合によっては第三者間でも、やはり注意が必要です。

 

終わりに

皆様、ご自身の管理状況はいかがでしょうか?
「自分は大丈夫かな?」「今からでも対応できるのかな?」そんな疑問にベイヒルズ税理士法人では相続税申告を専門に行う税理士がお答えします。どうぞ気軽にご相談ください。

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